1999.10.16
ストレイト or ブレイド？
黒人女性の髪の作り方
黒人女性は髪の手入れに膨大な時間とエネルギーを費やす。黒人地区のスーパーや化粧品店の棚には黒人専用ブランドのシャンプーやヘアコンディショナー、さまざまなスタイルのウィッグ（かつら）やエクステンション（つけ毛）、どう使うのか判らないスタイリング剤などが何十種類も所狭しと並び、その様はまさに圧巻。もちろん鏡の前で何時間も過ごすというのは女性なら洋の東西を問わない習性（女性という種には遺伝子として組み込まれているのだ）だけれど、彼女達の縮れた髪をセットするにはそれなりのテクニックが必要だし、また縮れているとはいえ一本一本の毛髪は実はとても細く、だから日頃の手入れにも気を使わざるを得ない。
まだ小さな黒人の女の子たちですら、髪には時間をかけている。女の子がいる家庭なら、どこでもマミーかグランマ（おばあちゃん）、もしくはアンティ（おばさん）やビッグ・シス（お姉ちゃん）が、櫛の通りが悪くて痛がる女の子を「もう少しだから、おとなしくしてなさい！」となだめたり、叱りつけたりしながら彼女たちの髪を仕上げている。頭髪全体をいくつものブロックに分けてブレイド（三つ編み）をたくさん作り、カラフルなゴムやプラスティックの髪飾りで止める。丸いおでこにブレイドが揺れてどの子もとても可愛いけれど、要はマミーのセンス次第。
一方、おとなの女性は、最近はほとんどがストレイテンド（薬品で髪の縮れをストレートに伸ばす）か、ブレイド（全ての毛髪を何百本もの極く細い三つ編みに編む）にしたうえで、いろいろなスタイルにアレンジしている。
まずストレイテンド派。縮れたままではまとまりにくいし、ヘアスタイルのヴァリエーションも限られてくるので薬品を使ってストレートにし、その後で好みのかたちにセットする。ただ、もともと毛髪が細いのに加えてケミカル処理を施すせいか、そんなに長くは伸ばせないようで、生まれつき直毛の白人や東洋人のようにそのまま肩にたらしている人は少ない。ほとんどの人は普段は後ろでひとつにまとめる程度。ただしいったんデートやパーティなどの特別な日となると仕事帰りにヘアサロンへ直行し、黒人ヘアスタイリストならではの見事なカールを作ってもらう。そのユニークで華やかなヘアスタイルはドレスにとてもよく映える。
ブレイド派は、ただ根気の一言。子供のブレイドと違って百本以上も編むわけだから一日仕事となる。仕上がりは耳元程度の長さのボブスタイルから、背中にかかる長さまで様々で、さらにそのブレイドを巻き上げてアップスタイルにしたりもする。ただ、やはり地毛がそんなに長くはないので、エクステンション（つけ毛）を編み込んで長く見せているのだが、どこからがエクステンションなのか全然判らない編み込みテクニックには驚かされる。編み上げたらブレイドがほぐれてこないように一本一本の先端をライターの火で焙り固めて終了。
一度ハーレムのフライドチキン屋で、ポケットに櫛を差した美容師と白いナイロンブーケをはおったままのお客のペアがテイクアウトしているのを見たことがある。全て編むのに７〜８時間はかかるというから、お互いに食事休憩が必要なのだ。ご苦労さま。しかも数ヶ月経って根本の髪が伸びてきたら、いったんほどいて、また編み直し。やれやれ。
ラスタの象徴として知られるドレッドロックはカリビアンだけではなく、アフリカン・アメリカンもするけれど、女性はあまり好まない。ブレイドのほうが見た目がフェミニンだし、一度ドレッドにしたら、もうほぐすことはできず、あとは切るしかないからかも。また堅い会社への就職はブレイドはギリギリОＫ、ドレッドロックは門前払い、らしい。
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かつて公民権運動が盛り上がった60〜70年代には「ブラック・イズ・ビューティフル」というスローガンがあり、自然なままの縮れた髪こそが黒人本来の姿だということで、あのアフロヘア・ブームが巻き起こった。（それがディスコ・ファッションとつながり、アフロがどんどん巨大化したのは今考えるとおかしいけれど） でも女性にとってヘアスタイルは権利拡張やアイデンティティ確立と同等に、いや実はそれ以上に重要な問題なのである。だから黒人女性たちはとっくの昔にアフロをやめて、今やストレイトニングに熱中しているというのに、日本のいわゆるＪ−Ｒ＆Ｂシンガーたちがわざわざ強烈なパーマをかけてでもドレッドにしたり、時としてアフロのかつらを被ったりしているのは、お互いに“ないものねだり”なのだろう。（メンバー全員がアフロのヅラを被せられているFolderというキッズ・グループ、あれはなんとかならないか）
以下のHPでブレイドの編み方やヴァリエーション（"Gallery"というページに行く）が見られます。
Tiffany's Salon Guide http://www.royaltybraids.com/
