NYBCT

1999.10.3

ビッグ・ママと7人の消防士



 
■肝っ玉ママと7人の消防士■
臨月を迎えていたミズ・デュークは木曜の夜、ニューヨークのブルックリンにあるベッドフォード・スタイヴザント地区、通称ベッドスタイの自宅に向かってバスに乗っていた。ところがいきなり陣痛が始まり、あわててバスを降りた彼女は通りすがりの女性に助けられ、2人で近くの消防署に飛び込んだ。ここならすぐに救急車を手配してもらえると思ってのことだった。
ところがお腹のなかのベイビーはもう一刻も待てなかったらしい。今にも赤ん坊が飛び出しそうなミズ・デュークに7人の消防士たちはなす術もなく、とりあえずは椅子をすすめたところ、彼女は「椅子なんかいらないわよ! 今いるのはベッドよ!」と一喝。そして、そのまま男の子を産んでしまったのだ。
後日、消防署を訪れたミズ・デュークは消防士たちの帽子に縫い付けてある名前を見、その中から3人の名前をとって、赤ん坊にトーマス・スティーヴン・デュークと名付けた。(7人のうち、2人が“トーマス”だった)
これで4人の子持ちとなったミズ・デュークは語る。「3人目の子は私の祖母の家のカウチで生まれたの。だんだんヘンな場所になっていってるわね」


 
■黒人がついてはイケナイ職業■
そのミズ・デュークが7人の消防士に囲まれて楽しげに笑っているスナップ・ショットを見たとき、ある奇妙なことに気づいた。ブルックリンのベッドスタイといえば黒人地区であるにもかかわらず、7人の消防士全員が白人だ。ベッドスタイの住人であるミズ・デューイはもちろん黒人。
この記事と前後して、別のレポートを読んだ。ニューヨーク・シティの消防士のうち、なんと94%が白人だそうだ。同市の人種構成が白人38%、ヒスパニック28%、黒人25%、アジア系9%であるにもかかわらず。
今年、ようやく採用されたある黒人消防士は、昨年応募した際には“出頭命令不服従”を理由に不合格とされている。1988年、19才の時に駐車違反のチケットを破りすてたことを指してのことらしい。また別の黒人消防士も、100点満点の採用テストで98.25という高得点を取ったにもかかわらず、昨年は採用保留にされていた。8年前の軍隊時代に他の兵士をののしって起訴されたことが理由だ。その件は無罪になっているにもかかわらず。


 
■黒人がやってはイケナイスポーツ■
ヴィーナス・ウィリアムスは久々の大型黒人テニス・プレイヤーとして注目されていたのだが、今年の全米オープン・テニスでは、ヴィーナスの妹である17才のセリーナ・ウィリアムスが優勝。テニスはゴルフと並ぶリリー・ホワイト(白人優勢)なスポーツだが、ゴルフにはひと足早くタイガー・ウッズが現れており、これであとは最大の難関部門“水泳”を残すのみか。


 
■コインの裏と表■
今年の2月にニューヨークのブロンクスで、アフリカからの移民である青年アマドゥ・ディアロが、まったくの無実であるにもかかわらず4人の警官から41発の弾丸を受けて亡くなった事件の初公判が来年1月3日に決まった。
この事件で市民や黒人団体から激しい非難を浴びたニューヨーク市警察は覆面警官にも制服を着せるなどの措置を取ってきたが、そうすると今度は殺人事件が増えてしまった。特に9月10日の金曜の夜、ニューヨークのあちこちで11件もの事件が起こり、たった一晩でなんと12人が撃たれたり刺されたりして、そのうちの4人が亡くなってしまった。
昨年比6.5%という殺人事件の発生率上昇を重く見た警察長官は、ふたたび覆面警官に私服を着る許可を出すことに決めた。


 
■プエルトリカン VS メキシカン■
先月行われたオスカー・デ・ラ・ホヤとフェリックス“ティト”トリニダッドのボクシング・マッチはスパニッシュ・ハーレム中に興奮をもたらしたようだ。
ニューヨーク・マンハッタンの北部を占めるハーレムはアフリカン・アメリカンの住むエリアだが、東半分はスパニッシュ・ハーレム、あるいはスペイン語でエル・バリオと呼ばれるプエルトリカン地区になっている。ところがここ数年、エル・バリオにはメキシコ人の流入がおびただしい。
ある国からの移民がニューヨークにやってくると、彼らは一ヶ所にかたまって住み、やがてそこが大きなエスニック・コミュニティとなる。何世代か後に徐々に経済的あるいは社会的に成功する者が現れると、彼らは郊外の治安の良い場所へと移っていく。そうして空いたアパートメントには次の新着したばかりの移民が住み着き始め、やがてそこは新しい民族のコミュニティとなる。…これがニューヨークで永年にわたって繰り返されてきた歴史だ。
スパニッシュ・ハーレムに住んでいたプエルトリカンも徐々に他地区に移り出し、特に116thストリートには現在メキシコ人が入ってきつつある。したがってスパニッシュ・ハーレム全体ではプエルトリコ出身のトリニダッドを応援していたわけだが、116thストリート近辺ではメキシコ人たちが、メキシコ系アメリカンであるデ・ラ・ホヤに熱狂していたのである。


 
■テレビにもっとヒスパニックを■
優れたヒスパニック俳優であり、ラティーノ(ヒスパニックの別称)の権利拡大運動を文化的側面からおこなっている
エドワード・ジェイムズ・オルモスが、新たにラティーノ・パブリック・ブロード・キャスティングというプロジェクトを始めた。テレビにもっとラティーノ俳優を、という組織である。渋味のある実力派アクター、オルモスは言う。「人々は黒人と白人以外がテレビに出るとは思ってもいない。茶色(ラティーノ)と黄色はテレビの中には存在しないんだ」
先日、NAACP(全米黒人向上協会)が「テレビにもっとマイノリティーを」とテレビ局に要求したばかりだが、ラティーノにとっては黒人のほうがまだしも優遇されているように見えるわけである。


 
■ニューヨリカンのプライド■
ニューヨークはブロンクス出身、バリバリのニューヨリカン(ニューヨークに住むプエルトリカン)女優であるジェニファー・ロペス、ただいまファースト・アルバム「オン・ザ・シックス」も大ヒット中。
でもCDのタイトルにある「シックス」ってなんだ? 答えはCDケースのなか、ディスク本体にあった。ニューヨークに行ったことのある人なら納得、ブロンクス行きのNo.6サブウェイのことだったのである。盤面には「ブロンクス行き」のグリーンのプレートを掲げた地下鉄車両がばっちり写っている。
ニューヨークの新聞に毎日、目を通していると、ヒスパニックに関する記事がどんどん増えていることに気づく。なかには「本日、マンハッタンのタワーレコードに“ラテン・ポップ・スター”マーク・アンソニーが来店!」なんていうものまである。人口の増加に伴ってその文化が普及していくのは自然の成り行き。だからといってブラック・カルチャーが消滅するわけではないのだけれど、ただ時代は確かに新しい方向に向かっている。

 

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